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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)7043号 判決 1981年6月25日

原告 株式会社大富士総合リース

右代表者代表取締役 石田道雄

右訴訟代理人弁護士 大林清春

同 池田達郎

同 白河浩

被告 イイダ靴下株式会社

右代表者代表取締役 飯田圭三

右訴訟代理人弁護士 梅本弘

主文

被告は原告に対し、金九、九五二、八〇〇円およびこれに対する昭和五四年二月一九日から完済まで日歩四銭の割合による金員を支払え。

訴訟費用は、被告の負担とする。

この判決は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  主文同旨

2  仮執行宣言

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二主張

一  請求原因

(一)  原告と被告とは、昭和五三年一一月ごろ、次の約定でリース契約を締結した。

1 原告は東京芝浦電気株式会社製コンピューター「TOSBACシステム一五モデル三〇」一式(以下、本件機器という。)を、東京オフィスコンピューター株式会社(以下、東京オフィスという。)から購入して、被告にリース(賃貸)する。

2 本件機器の設置場所は、佐賀県杵島郡江北町大字山口一六一九番地被告佐賀工場とする。

3 リースの期間は、借受証発行の日から六〇ヶ月とする。

4 リース料は、月額一七一、六〇〇円、現金各月先払いとし、その支払は、第一月分については借受証発行日に、第二月分以降については各月の借受証発行日の応当日に、駿河銀行東京支店にある原告の普通預金口座に振り込んで支払う。

5 被告は、本件機器の引渡しを受けたのちこれを検査したうえ、借受証を原告に交付する。

6 被告は借受証を原告に交付した日から、本件機器を使用することができる。

7 本件機器の規格、仕様、性能、機能等に不適合、不完全、その他の瑕疵があったときは、被告は直ちにこれを通知し、前記借受証にその旨を記載する。被告がこれを怠ったときは、リース物件は完全な状態で引渡されたものとみなし、被告は以後一切の苦情を申立てることができない。

8 被告がリース料の支払を一回でも遅滞したときは、原告は、通知催告を要しないで、リース料全部について、即時に弁済を請求することができる。

9 遅延損害金日歩四銭の割合

(二)  被告は昭和五三年一二月一八日原告に対し借受証を交付した。

(三)  被告は昭和五三年一二月分と昭和五四年一月分のリース料を支払ったが、同年二月一八日支払うべきリース料の支払いを怠ったので、同日残リース料金九九五万二、八〇〇円の支払い義務が発生した。

(四)  よって、原告は被告に対し、九九五万二、八〇〇円及びこれに対する期限の利益を失なった日の翌日である昭和五四年二月一九日から支払済みに至るまで、日歩四銭の割合による約定遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

(一)  請求原因第(一)項中、被告が本件機器について、その主張の如き約定で、原告との間に、リース契約を締結したことは認める。

(二)  同第(二)項を認める。(但し、その日付は、昭和五三年一一月二日である。)

(三)  同第(三)項前段を否認し、後段を争う。被告は後記約定(抗弁(二)1)に基づき、リース料を一度も支払っていない。昭和五三年一二月分と昭和五四年一月分の各リース料は、東京オフィスが、被告の名において支払ったようである。

三  抗弁

(一)1  原告は、東京オフィスの取締役兼営業企画管理部長である桐原正、同社システム部長澤上道夫の両名に対し、本件リース契約を締結する代理権を与えた。

桐原、澤上の両名は、原告の代理人として昭和五三年一一月二日被告と、本件機器の搬入及びソフトウェアの納入は、昭和五四年二月二一日ごろの稼働を目標とすること、リース料の支払いは、本件機器が約定どおりの性能を発揮して稼働することを確認後に開始するものとする旨の合意をした。

2 仮に、原告が桐原、澤上の両名に対し、右のような契約を締結する代理権を授与していないとしても、次のとおり表見代理が成立するから、原告はその責に任じなければならない。

(1) 原告は、桐原、澤上の両名に対し、原告の記名と捺印が施されたリース契約書を交付してその使用を許し、もって右のような契約をするについて同人らに代理権を与えた旨を、被告に表示した(民一〇九条)。

(2) 原告は桐原に対し、少なくともリース契約書の被告記名捺印欄を被告に補充せしめ、もって既に施した自らの記名捺印と相まって契約を完成させることを委任しその代理権を与えたものであり、1の契約を締結することが右代理権を越えるものであれば、リース契約の締結に際し、原告が一度も被告と接触せず、その内容はすべて桐原との交渉によってきまったこと、桐原が原告の記名捺印の施された契約書を持参したことからすると、被告が桐原に前記1の契約を締結する代理権があると信じたことは正当な理由がある(民一一〇条)。

3 リース物件は、昭和五四年一月初めごろ被告に引き渡され、同年二月二一日の稼働を目標に、東京オフィスによって、機械の操作テスト及びプラミングの作成が継続してなされていたところ、同年一月末ごろ、東京オフィスは倒産し以後、その作業は中断されたままである。

4 被告は、ソフトウエアの納入が履行不能になったことが確定的となったため、昭和五四年五月二九日付内容証明郵便を以って、原告に対しリース契約を解除する旨の意思表示をした。

(二)  仮に、原告と被告との間に、ソフトウエアが完成し、リース物件の稼働が可能になったときに、はじめてリース料の支払いが開始するとの契約が成立していないとしても、被告はそのようなものと信じて、リース契約を締結したのであるから、本件リース契約は錯誤によるものであり無効である。

四  抗弁に対する認否

(一)  抗弁(一)の第1項を否認する。第2項を争う。第3項は不知、第4項中、原告主張の日時に、その主張の如き書面が到達したことは認める。

(二)  同(二)を否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因事実のうち(一)(但し、契約の日を除く。)この各事実については、当事者間に争いがないので、リース契約に基くリース料支払義務は、遅くとも昭和五三年一二月一八日には生じているといわねばならない。

二  そこで、原告の約定損害金支払請求の可否について判断することになるが、被告が昭和五四年五月二九日付内容証明郵便を以って、本件リース契約を解除する旨の意思表示をしたことについて、当事者間に争いがないので、先ず、この契約解除の成否について検討する。

《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。

1  原告会社東京営業部に勤務していた野澤幸紀は、昭和五三年一〇月ごろコンピューター販売会社である東京オフィスの社員である松下某から、被告会社が、本件機器についてリース契約を、原告会社と締結するとすれば、リース料は、いくら位になるかの照会を受け、東京オフィスが示した物件価格八〇〇万円、リース期間五年(六〇ヶ月)を前提として、原告会社の計算方法に従って、リース料を試算し、社内の審査がとおれば、月額のリース料は、一七万一、六〇〇円になる旨回答したこと。

2  一〇月一四日ころ、野澤は、東京オフィスの営業部長である桐原正を訪ねて、同人から被告会社の資産内容とその取引先の説明を受け、その決算書二期分と、さらに、昭和五三年一〇月二日付の被告会社が東京オフィスに対し、被告会社が本件機器をリース料月額一七万一、六〇〇円、契約期間を五年として導入する旨約した導入約定書(甲第三号証)を渡されたこと。

3  原告会社は、被告会社の決算書二期分の内容、桐原の説明及び帝国興信所の信用調査等から、被告会社の信用に不安がないと判断して、昭和五三年一〇月二三日、導入約定書に記載のあるとおりの期間、リース賃料によって、被告会社とリース契約を締結することを決定し、その旨東京オフィスに伝え、同月二五日原告会社代表者名義の記名と捺印のあるリース契約書及び借用証の用紙各二部ずつを、桐原と当時、東京オフィス・システム部長で桐原とともに被告会社の佐賀工場に、本件機器のソフトウエアの説明に赴く澤上道夫に交付したこと。

4  桐原らは、昭和五三年一〇月末ごろ、佐賀県杵島郡被告会社佐賀工場において、被告の常務取締役でコンピューターの導入を実質的に決定する権限を有していた飯田清三と会って、最終的な打ち合わせを行なったが、その際、桐原は、リース料の支払いは、ソフトウエアが完成し、本件機器が稼働するようになってからでよい旨口頭で述べた。

桐原は、昭和五三年一一月二日奈良県御所市所在の被告の本社で、リース契約書とリース物件の引渡を受けた旨を証明する文書である借受証(但し日付は、記入していない。)に、被告代表者名義のゴム印・実印を押捺してもらい、帰京後、直ちにこれを原告会社に届けて、ここに、原告と被告との間で、請求原因(一)記載のとおりの約定の本件リース契約が成立した(本件リース契約成立の点は、当事者間に争いがない。)。

5  そこで、原告は、昭和五三年一一月七日ころ、東京オフィスから、本件機器を代金八〇〇万円で買い受ける旨の売買契約を締結し、昭和五三年一二月一九日代金の支払いを了したこと。

6  原告が受領した右リース契約書と借受証にはいずれも、不動文字で「リース期間借受証発行日から六〇ヶ月」、「貴社と弊社とのリース契約書に基いて下記の物件を本日正に借受けました」との記載が存するのみで、リース料の支払いが、本件機器が実際に稼働するようになってから開始することを示す何等の記載も存在しなかった。

以上の事実を認定でき、右認定に反する証拠はない。

以上認定した事実によると、東京オフイスの桐原は、リース契約書の約定によると、リース期間は借受証発行の日から六〇ヶ月で、その第一回の支払いが借受証発行の日から六〇ヶ月と定められているにもかかわらず、これと異なる約定を被告の飯田としたことになるのであるが、一方、本件リース契約は、あらかじめ需要者である被告と販売者である東京オフィスとの協議によって、需要者である被告が自己の必要とする本件機器を選定し、そのうえで、これを買い取るよりは賃借することを選択して、リース会社である原告に賃借を申し入れ、他方、販売者である東京オフィスは原告に本件機器を売り、原告がこれを買い入れて被告に賃貸する仕組みの、いわゆるファイナンス・リースであると認められる。

そこで、被告は桐原が原告の代理人として、かかる特約をしたと主張するのであるが、前記認定した事実からは、原告が桐原に対し代理権を授与したとみることはできない。のみならず、桐原は、原告の代理人である旨を表示したわけではないこと、ファイナンス・リースが実質的にはリース会社が需要者に信用を供与することにあり、原・被告・東京オフィスの関係は鼎立状態にあって、桐原らが原告から交付を受けて持参したリース契約書の内容は、すでに原告が決定しており、桐原にはこの内容を左右するような権限はなく(現に、リース契約書の内容が、飯田との交渉によって加筆訂正された事実は、認められない。)、その立場は、原・被告間のリース契約においては、原告の使者にすぎなかったとみられるから、桐原がリース契約書を持参したことをもって、原告が被告主張のような代理権を桐原に授与する旨を、被告に表示したものと認めることはできず、また、原告は桐原に対して、何等の私法上の行為をなすべき権限を与えていたのではないから、権限踰越の表見代理の主張は、その前提を欠き、その余の点について判断するまでもなく失当である。

そして、被告がファイナンス・リースの仕組みを理解していれば、リース契約を締結するときに、被告と協議したのが東京オフィスの桐原であっても、その立場は仲介者以上のものでないことが容易に知り得たことを考えると、使者の桐原に表見代理の法理を類推するような事情にもないといわねばならない。

更に、付言すれば、ファイナンス・リースにおいては、販売会社(東京オフィス)とリース会社(原告)との売買契約とリース会社と需要者(被告)とのリース契約とは、相互に関連しているとはいえ、法的には独立した別の契約である。販売会社がリース契約においては、当事者となっていない以上、リース契約の内容に関与することはできず、販売会社と需要者との間に、特約のごときものがあっても、リース契約に何等の影響がないのは、当然といえる。

よって、原告と被告との間で被告主張の特約が成立していることを前提とする契約の解除を認めることはできず、これを理由として、リース料の支払いを拒むことはできない。

三  被告は、本件リース契約が錯誤であるから無効である旨主張する。

桐原が被告の常務取締役である飯田に対し、リース料はソフトウエアが完成し、本件機器が稼働可能になってから支払えばよいと告げていたことは、前認定のとおりであるが、そのことによって、飯田がそのように考えていたとしても、本件リース契約において、右は契約の内容となっていないのであるからそれが要素の錯誤になるなどということはない。けだし、本件リース契約によると、その支払いは、借用証が発行された日を第一回として、始まるというのが契約の内容だったからである。

四  被告が昭和五三年二月以降のリース料を支払っていないことについては、当事者間に争いがない。すると、この場合に、被告が支払うべき約定損害金の額が、請求原因(一)記載の計算方法によれば、九九五万二、八〇〇円であること、及びこれに対する右損害金支払義務の発生した日の翌日である昭和五三年二月一九日から支払済まで日歩四銭の割合による遅延損害金であること明らかである。

よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民訴法八九条を、仮執行の宣言について、同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 畔柳正義)

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